比丘尼の残夢【完】
この人寂しいに違いない。

家族だと言うのに、あの初日に会った奥様や、弟と言う人は会いにはこないのだろうか。

それを言ったら、逆に同情された。


「いや、俺と医者以外に会えないのはお前さんもなんだけど... 」

「はぁ、まぁ... そうですよね」

私は別に良いのだ。

元々広い世界など持っていない。

田舎にいたって、弟たちの世話に明け暮れて、今よりも忙しかった。

それなのにお金が貰えるわけでもなく、お腹は減る。


それにくらべたら愉快なご主人様と、お気楽極楽生活だ。

兄弟だけはたくさんいたから、他のみんなが私がいなくて寂しいこともなかろう。


ご主人様は少し考え込んでいた。

それから思いついたように言った。


「今日は医者が来る日だから、一緒にお使いを頼まれてくれない」
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