比丘尼の残夢【完】
「お、お使い!? お外でごぜぇますか!?」

「うん。お前さんならこの辺りの連中に、顔もほとんど知られていないだろうし」

医者はなんて言うだろう。

感染しているかもしれない私を、外になんて出すだろうか。

それに...


「嫌です、ご主人様と離れるの」

一人にするのが不安だ。

あの時から尚更体調の悪い姿など見せてはくれず、良いのやら悪いのやらさっぱりとわからない。

口をとがらせた私を見て、ご主人様は溜息をついた。


「... それは惚れた男に言う台詞だ」

そうだろうか。

心配くらいさせてくれてもよさそうなものだ。


「これは命令、命令」

追い出すような事を言って、ご主人様はまた笑った。




医者は午後になってやってきた。

「なんだ君、まだいたのか」
< 29 / 104 >

この作品をシェア

pagetop