比丘尼の残夢【完】
私の顔を見るなり冷たくそう言い放って、睨まれた。

靴を脱ぐ間、今度は当たり前のように黒い鞄を渡された。


お、重い... 。

また勝手に入って行くのを追いかける格好になりながら、私は言った。


「先日は、とんだご迷惑をおかけして申し訳ごぜぇませ... 」

「わかってるなら早く出て行くんだな」

あくまでも、私を追い出そうと言う姿勢は変わらぬらしい。


でも嫌です。

だってあのご主人様、心配なんだもの。


「君は、ここで良い」

ん、と差し出された手に鞄を渡すと、彼は軽々と受け取った。

ご主人様の部屋には入れて貰えなかった。

また倒れられては敵わぬと顔に書いてある。

有無を言わせず扉は閉まったが、部屋の前から離れられずにいた。

聞こえてくるのは、また医者の機嫌の悪い声だ。
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