比丘尼の残夢【完】
でも医者が答えたのは、逆だった。


「いやこの人が亡くなってから、すぐあいつが。
きっとこの比丘尼に呪われたんだ」

「ひぃっ!!」

幽霊の真似で脅かされ、私は飛び退いた。

呪いですって!? 好きな人に何するのよ!


「そう、睨むな。それは冗談だ。
まぁしかし、後でも追うために気合で病気になったようには見えたな」

出来るのか、そんな事が。

でもあのご主人様ならやってしまいそうな気もする。


「だからあんまり治りたいようにも見えない。手術もしたがらないし、真面目に薬も飲んでいないかもしれん」

「そ、そんな... そんなことしたって、この方喜びませんよ」

好きな人に死んでほしいなんて思うわけがない。

自分の分も生きて、と私なら思う。


「さぁねぇ。身分違いだし、この世で結ばれないのならあの世でって、契りでも交わしてるのかもしれんね」

俺にはわからんけど、と煙の向こうで医者は続けて呟いた。
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