比丘尼の残夢【完】
「... 大恋愛だったんだ。
彼女は伝染病でね、最後には会わせても貰えなかった。
隔離された病棟で、一人で寂しく亡くなったらしいよ」

隔離された病棟。お屋敷の離れ。


一人寂しく逝った彼女を、同じようにしてご主人様は偲んでいるのだろうか。

3年も。病気を抱えて誰にも会わずに。


「そうだったんですか... 睨んですみませんでした... 」

「呪いもあながち冗談に聞こえんだろう?」

落ち込んだ私に向かって、ヒヒヒと再び医者は笑った。


「つっ、連れて行かないでくだせぇっ!!」

思わず墓石を掴んで揺すった。


「あっ! おい、やめろっ」

いるなら、聞いてくれ芸者さん!

だって、うちのご主人様は笑うんですよ。

生きてるのが楽しくない人は、あんな顔しないと思うんです。


「ご主人様の代わりにっ! お饅頭あげますからああっ」

「君と一緒にするな。この女は酒の方が好きだ」
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