比丘尼の残夢【完】
笑顔にすっかり騙された。


「仲良いんですね! 宇治方様」

なんか憎たらしい。


「良いものか! 馬鹿言うんじゃない」

医者は首を掻きつつ嫌そうに言った。


「だって笑って話していたの、見ましたよ!」

「大人の事情がある」

そんなもの知らない。

でも、医者が最初に言った「不味いのに会った」と言う言葉と、道端に吐いた唾を思い出して少し納得した。

そういえば、「弟の息のかかっている医者が伝染病を... 」だとかなんとか。

前に診察に来た時に盗み聞きした気がする。


「あのぅ... 」

冷たい家族のことなんてご主人様には聞き辛く、それならこの医者に聞いてしまおうと口を開いた。

だって他の人と次に何時話せるのかわからない。


「あの人のせいで、ご主人様は離れなんかに閉じ込められてるのですか」
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