比丘尼の残夢【完】
「滅多な事を言うな。あいつが今はあの家を継いでる。君の本当のご主人様は浩毅だぞ?」

う、言われてみたらそうだ。

あの身体であんな場所に閉じ込められているご主人様が働いているはずはなく、すると私のお給料はあの男から出ていると言う事か。


なんだか嫌だ。


「... ぶぅ!」

「風呂敷取りなさい。可笑しいから、それ」

ひとしきり医者は笑い、車を発進させた。


「... 俺はそう、思ってるけどね」

医者は前を向いたままだった。

それが「あの人のせいで... 」に対する返答だと気がついた時には、辺りが暗くなっていた。


「何故ですか? 家族なのに」

「家族だからだよ。君は知らないだろうけど、あれだけのお金持ちだと大人の利権が絡むわけだ」

「リケンてなんですか」

「死んでいなくて頭が正常だと、今まで直嗣についていた奴がそのまま自分たちの良いように利用しようとするの。
それと、浩毅に肩入れしてる大人が喧嘩するわけ」
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