比丘尼の残夢【完】
わかるような、わからないような。


「だから伝染病だなんて言って、ご主人様を誰とも会わせないってことですか?」

この医者は伝染病に免疫があるわけでも、裏技で撃退しているわけでもなく、元からご主人様の病が伝染病なんかではないことを知っていたのだ。


「頭良いじゃないか、そういうこと。
つまり直嗣死なずして巧く家を乗っ取ったってことだ」

お抱えの医者にそんな診断を書かせて、周りの人を騙してまで。

あんな病原菌扱い酷過ぎる。


「酷い!」

「まあ、あんな体で働かれても俺も困るんだけどね。
直嗣に病を直す気さえ出てくれたら、俺も黙ってはいないけどさ... 奈何せん本人があれだとどうしようもない」

ダラダラしてるもんな、ご主人様... 。

あれで本当に、今の男のようにきちっとした洋装で、黒塗りの高級車に乗って働いたりしていたんだろうか。

想像もつかない。


「お屋敷にいる奥方も会ったことないか?」

「ありますです、最初の日に」
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