比丘尼の残夢【完】
入口で心配そうにしているご主人様からは見えない角度で、医者は『よくやった』と目で言った。


「... 熱はないなぁ」

形だけの検温を済ませて、医者は体温計を振りながら私の額に手を当てた。


「何処が痛い?」

「そ、そういえば胸が... 」

そう言うように言われている。

えっ、と驚いた顔をしたのはご主人様で、慌てて近寄ってきて医者の隣に座った。


「腹じゃないのか!? ナナミ」

「へ、へぇ」

お腹は減っていますが。


「直嗣、邪魔だ。聴診器当てるから胸開けて」

嗚呼、仮病なのに恥ずかしい。

言われたとおりに寝巻の合わせを解いて、無表情の医者に晒した。

さすがにご主人様は目を逸らしてくれていた。


「おお! 意外に良い身体してるな、子供のくせに」

「...... 」
< 46 / 104 >

この作品をシェア

pagetop