比丘尼の残夢【完】
それはあなたがご主人様だからで、女中の私がやって良いことではないと思う。


「あ、そうだ。さっきの飯そのままにしてあるから、食べたら良いよ」

「えっ!」

わーい! ご飯だ!


思わず涎を啜り、にんまりしてしまった。

ご主人様は溜息をついて笑った。


「お前って奴は、本当に... 」

伸びた手に小突かれるのかと思って、身体が強ばった。


でも、されたのは優しい抱擁。

抱き締められたのはあの日以来で、今度は膝を付いたご主人様の顔が私のすぐ横にある。


「ナナミ、... 美味いものやるから、... 目を閉じて口開けてみな?」

今のはご主人様が唇を舐める音だ。


耳に直接囁かれた言葉は、熱い息と一緒に鼓膜を濡らし、魔法にかかったみたいに私を言うとおりにさせた。


せせ、せ、接吻!?

これ、それ。
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