比丘尼の残夢【完】
それは喧嘩になるはずだ。

医者にそんなことで疑われた奥方の怒りは想像に余りある。


まだ笑っているが、この人はわかっているのだろうか。


「宇治方様は... ご主人様のことを真剣に心配してらして... 」

策と言う名の計画は馬鹿げてはいたが、その気持ちに嘘や冗談はない。

だから協力する気になったのだし、病気でもないのに寝巻の合わせまで... 。

思い出すと顔から火が出る。


「心配してくれなんて頼んだ覚えはないね」

どこまで天の邪鬼なのだ。


「来てくれなくなっても知りませんよ」

「良いよ、ナナミがいるから」

く、......

そんな事を言われては、これ以上言えないではないか。

きっと病気になる前は、この口車と手の早さで何人もの女を泣かせたに違いない。

嗚呼、恐ろしい。
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