比丘尼の残夢【完】
話しを聞いていると、他人事みたいだ。


「あのぉ... お屋敷の奥様は元はご主人様の許嫁で... ご主人様を裏切って弟様と結婚なされたと言うお話は... 」

「そんなことも知ってるのか。
あの二人は元々お互い好き合っていたのだよ。
親同士が決めた婚約者は俺だったらしいが、俺は好きでもない女と一緒になるのは嫌だね。
邪魔者が居なくなって、みんな幸せになったじゃないか」

それも奪われたわけではないらしい。

強がりにも聞こえないのは、酒好きな芸者を好きになるような人があの奥方を好みだとは思えないからだ... 。


「ほんとは半年くらいで死ぬって言われてたんだぜ?
それが宇治方の奴が良い薬持ってくる持ってくる... いまだピンピンしてて困るよ」

騒々しい蝉の声に混じって、ご主人様の笑い声も遠い。


不思議な気がした。

きっとそれだけではないのだろうけど、そこまでは私に話してくれる気になったのか。

最初は「お前にも伝染病がうつったんだぞ!ヒヒヒ」と脅かしていたのに、こんなにサラリと自分の気持ちを話しだすとは。


「うん、上手じゃないか。さっぱりした」
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