比丘尼の残夢【完】
「ここにいたいです、居させて下さい」

その気持ちだけは確かだ。

真っ直ぐに目を見て、医者に告げた。


「それは俺が決める事じゃないよ」

懇願は医者に届いたようだった。

彼は笑って顔をそむけると、ポンと膝を叩いて立ち上がった。

私の言葉が、少し嬉しそうに見えた。

たぶん自分と同じようにご主人様を心配してくれる人が、今までいなかったのかもしれない。


「まぁねぇ、実際は最後までやろうとしたって、その前に心臓止まるだろうから出来ないよね。恰好悪いからやらないと思うよ」

「心臓止まる!?」

そんな危ない事をしようとしていたのか。


「そう。だから誘惑しないであげて? それじゃ帰る」

誘惑! 私がするわけないじゃない!

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