比丘尼の残夢【完】
医者に怒られた日から、ぼーっとすることが多くなった。

気がついたように悪戯は仕掛けてくるが、いまいち以前のようなパワーがない。


いよいよお迎えが近いのかもしれない。

そう思って私は泣きそうになる。


ご主人様の物憂げな表情と気怠そうな態度全てに、私は死臭を感じるようになってしまった。

そして、一人寝床で涙が出たりする。


医者は錯覚だと言っていた。

あの日からご主人様は触れてさえ来なくなった。

きっと錯覚に気がついたのだ。

こう見えて実は大人だから、私よりも先に。

私はまだ錯覚に惑わされている。


「お前さん、なんか最近元気ないな」

「へぇ、ご主人様こそ」

「俺は病気だから当たり前だろう」

そうでした、だから私は悲しいのでした。
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