比丘尼の残夢【完】
と言うか、ダラダラしてると老けないのだなぁ... 。



そのご主人様は、人の膝の上で呑気に欠伸を噛み殺していた。

これはいよいよ時を止められる妖怪なのかもしれない。

病気も一緒に止めてしまえばいいのに。


「俺は猫だから先に死ぬけど、お前さんには幸せになって欲しいと思うよ。
これは邪な気持ちなしで」

「... 猫は寿命がちがいますからねぇ」

嫌だ、今目を開けないで。

この場で邪な気持ちを持っているのは私だけで、そんな私を見られたくない。


貴方はあの芸者が好きなんでしょう。

早く傍に行きたいから、ここから出ない。

私の言うことなんて聞きはしない。


窓から入ってきた風が私のメイド服の紐を揺らし、顔に当たったご主人様はむず痒そうに眼を擦った。


「泣くときは泣いてます、と言え」

「いや、泣いてませんし」

「普通に寝るところだったぞ、今」
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