比丘尼の残夢【完】
「え... 元気に、なるんじゃないんですか? 手術さえしたら」

私の仮病をつかってまで、あの時は医者も連れ出そうとしたではないか。


「病状がすすんでる。
若いから、思ったより早い」

そんなの、話が違う。


「知ってるんですか、ご主人様はそのこと... 」

「形見のつもりなんだろ。その時計」

私は知りもせずに、あんなに頼んでしまった。


「...... 私が頼んじゃったんです!
手術して欲しいって無理に... !
どどどどうしよう、」

なんて阿呆な内容の取引をしてしまったのだ。

もっと真剣に悩むべき問題ではないか。

手術しなければ、生きている時間は長引くかもしれない。



愕然として、縋るように医者の白衣を掴んだ。

彼は首を振った。


「どっちにしろ、手術しなけりゃ何時かくたばる。
あいつはそれを知ってるし、自業自得だと言ってる。
でも君には、言わないでくれと頼まれた」

「どうして!」
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