比丘尼の残夢【完】
田舎ではお腹がいつも減っていたのに、食べ過ぎてしまいそうです。


「美味しそうに食べるもんだねぇ。俺も食欲が湧くよ」

そういえば、この人は病人なのだった。

でもちっとも見えない。


「... あのぅ」

他の人と話すチャンスがないのなら、知りたい事はこの人に聞くしかないのだろう。


「はいな?」

「今朝、私こちらに着いて... お屋敷で着替えて、そのままここに寄越されたんですけども。私は何をしたらよいのでしょうか」

「あら、なんも聞いてないの?」

「へぇ...」

不安になって、箸が... いや、匙が止まった。


だって誰も教えてくれなかった。

先に女中奉公にでた友達によれば、お掃除したり、お洗濯したり、雑用をこなしたり、そんなようなことだと聞いていたのだが。


「そうかぁ、それは可哀想な事をしたなぁ... てっきり覚悟を決めて来てくれたのだと思っていたよ」
< 9 / 104 >

この作品をシェア

pagetop