比丘尼の残夢【完】
だって、その気になってくれないとひとりじゃできないのは知っている。


切れた唇を噛んで涙目で睨んだら、ご主人様は爆笑した。

ひとしきり大笑いした後、ビシと私を指さして言った。


「俺を押し倒そうとは片腹痛いわ! そこに直れ」

「へ、へぇっ! 申し訳ごぜえませんっ」

直れ、というのは正座で良いのか!? 合わせて土下座して見た。

命令口調には思わず反応してしまう。


「うぅ... 」

ご主人様を押し倒そうとした女中なんて、日本刀で叩き切られてもきっと文句は言えない。



ひれ伏したまま重ねた手の上に暖かさを感じて、私は顔をあげた。

ご主人様が顔を寄せて、私の指先に口づけていた。

でも、ものすごく近い位置で目が合って、怒られた。


「... 頭が高い!」

「ひぃっ」

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