比丘尼の残夢【完】
町はずれで何時かのように黒塗りの高級車が追いついてきて、後部座席の窓が開いた。


『貴方に感謝しています。これでようやく私も兄に会える』

丁寧に浩毅とその奥方は私に頭を下げて、道中召し上がって下さいと風呂敷包みを渡して寄越した。


嗚呼、なんだか悪い人たちではなかったのだ。

お見舞いにもきっと行ってくれるのだろう。

最後の心残りがとれた気がした。



大好きな最中の包装に喜んで列車の中で開けたら、中身は見たこともないお札の束であった。

不安すぎて、混んだ車内すべての人物が私を狙う盗人に思えた。



「ナナミ、もっと食え」

「えっ!? 私!? 兄ちゃんありがと!」

なんでだー、ナナミだけずるいー、というヤジの中。

気にせず遠慮せず頂くことにした。


2人分食べていた時の癖が抜けずに、やたらとおなかが減るのだ。


「食わないと母乳でねえからな。
下の餓鬼のときの嫁が可哀そうだったからなぁ」
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