比丘尼の残夢【完】
余計な心配なんて、かけたくなかった。

ただそれだけだ。



もしかしたら死んでしまったのかもしれない。

もしかして手術が成功して、元気になってくれていたら、... もう私には係わりのない人。


あの奥様みたいなお上品な女性を娶って、幸せでいてくれたら良いなと思う。


「知らないで済む問題か!? 手を出してほっておく時点で男の風上にもおけん。これだから金持ちは... 」

あーあ、また始まったよこの話。

ご主人様の悪口なんて聞きたくないから、目を反らした。


手を出したなんて言わないで欲しい。

あの日私たちは間違いなく愛し合ったのだ!!



ガタガタと音がした。

今日は風が強い。

建てつけの悪い引き戸を叩くように、揺らしている。


「どんな面か、そいつの顔を見てみたいものだべ」
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