「金剛戦士Ⅱ」西方浄土
おそらく店の人は開業以来、初めて訊かれたのであろう、言葉が一瞬途切れた。

「四万十川の河口にアカメという魚がいるのは聞いたことがありますけど、幻の魚だとかいわれていて、実物は見た事もありませんねぇ」

「アカメを釣る漁師とか釣り人も居ないのじゃないですか。聞いたことがありませんし、確か希少種に指定されていて、獲ってはだめじゃないのでしょうか」
と言うので、由紀は

「なんだ、そうなの残念ねぇ。一度でいいから、お目にかかりたかったわ」

と言いつつ、隣に置いてある魚に目が移った。

由紀と店の人との会話を聞いていた理絵が

「人食いアカメが置かれている訳ないじゃない。よくそんなバカげたことを聞くよ」

と呆れたように言うのを由紀が聞いて

「そうか、なるほど分かったわ。人食いアカメを釣ろうとすると、逆にアカメに食われるといけないものね。だから釣ろうとする人も居ないのよ。納得、納得」

と言うので、理絵の隣で聞いていた勇太は、理絵が言った意味は、そういう意味じゃないのにと思い、可笑しくて声を押し殺して笑った。

すると由紀たちの傍で魚を見ていた老人が、由紀たちの話し声が聞こえていたのであろう、クスクスと笑っている。

老人は遍路の衣装を見にまといリュックサックを背負った八十歳を過ぎていそうな男性であった。

その老人が
「人食いアカメですか・・・私は初めて耳にしました。そんなのがいるのですか」

とにこやかに微笑みながら由紀たちに向かって話しかけてきた。
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