「金剛戦士Ⅱ」西方浄土
理絵は父親の宏が亡くなった時には、まだ小学生であり、父さんが死んだ悲しみは深く残っているが、事故や死亡の発表をした官房長官の顔までは記憶に無かった。

当時はテレビのニュースや新聞に載っているのを見ていて、おそらく知っていた筈であろうが、年月が経過するとともに記憶が薄らぎ、やがては消えていったのであろう。

しかし悲しみの記憶は、心に刻まれていて、父の面影を思い出していた。

勇太は由紀が「前野大臣じゃないですか」と問いかけた言葉で、老人が前野官房長官だったのを思い出して、そうだったのだと思いながら話を聞いていたが、なぜ二度目の、お四国巡りに来ているのか気になって、前野に訊ねた。

前野は
「一度目の遍路は、家内や子供が一人で歩くのは無理だと心配してくれて、家内は一緒に歩くと言ってくれたのですが、私は、どうしても一人で挑戦してみたくて、みんなの反対を押し切って私一人で歩いたのです。どうにか歩き通す事ができて、私が結願して家に帰ると誰よりも家内が喜んでくれて祝福してくれました」

「そして今度行く時こそ、家内は一緒に歩いて巡ってみたいので、連れていってくれることを望んでいました。私は次に、お四国巡りに行く時は、必ず一緒に行くからと約束していたのですが、私がしているボランティア活動が忙しくて、ついつい延び延びになってしまいました」

「私が、お四国巡りを成し遂げたのを最も喜んでくれ、その後のボランティア活動も自由にやらせてもらい、元気なのが一番だと理解してくれて、喜んでいてくれた家内が・・・」

前野が話をしながら、タオルを取り出して目を拭った。
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