「金剛戦士Ⅱ」西方浄土
「昨年、その長年連れ添った家内が脳内出血で突然に亡くなりまして、非常に残念で、なぜ、もっと早くに、お四国巡りに連れて来てやれなかったのだと悔やみました・・・くやしくて・・・くやしくて・・・」

「しかし死んでから悔やんでも遅いのです。・・・人間、命があるのが・・・生きてさえいてくれれば・・・」

涙で声を詰まらせながら話す前野が涙を拭い

「死んでからで非常に申し訳ないのですが、家内と一緒に、お四国巡りをしようと思い、二度目の遍路に来たのです」

前野は懐から妻の写真を取り出し

「これが家内なのです」
と見せた。

写真を見ながら、真知子お婆ちゃんが

「辛かったでしょう・・・でも奥さんも、きっと喜んでいますよ。ほら、とってもいい笑顔で微笑んでいますよ」

と話す脇から、由紀が写真を覗きこんで

「本当ねぇ・・・素敵な奥さんですねぇ」
と小声で言った。

前野は、鼻をすすりながらも、やや微笑んで

「少しでも供養になればよいのですが・・・私も、もう八十四歳になり平均寿命を越え、あと、どのくらい生きていけるか分かりませんし、ボランティア活動も、いつまで続けていけるか分かりません。残りの僅かな人生を死んだ家内を胸に、少しでも人の役に立つように努力してゆこうと思っています。今回の巡礼は、家内への今までのお礼と、私が死ぬまでの目標を家内に誓う旅なのです」
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