「金剛戦士Ⅱ」西方浄土
由紀やお婆ちゃんたち、理絵や勇太にも目に涙が滲んでいる。

芙美子お婆ちゃんが、前野に

「奥さんは、必ず今も前野さんを応援してくれているわ。どうぞ、お身体に気をつけて、お参りを続けてください」

「有難う御座います。私は、この巡礼の途中で、このような話をする機会があるとは、思ってもおりませんでした。私の身の上話を、お聴きくださって感謝いたします」

「私は家内が亡くなり、今回の遍路の途中で死というものについて考えました。結論は出ていませんが、死というものを前向きに捉え、これからの人生を前向きに生きてゆこうと考えています」

「どうぞ、あなた方も、良い旅が続きますように、心からお祈りいたします」
と前野は言った後

「では御免下さい」

とお辞儀をすると、涙を拭っていたタオルを直して、菅笠を被り歩き始めた。

一緒に車で行きませんかと声を掛けようかとも思ったが、彼は必ずや断るであろう。

やや左足を引きずってはいるものの、しっかりとした足取りで四十一番の方向へ向かって歩き去ってゆく。

去ってゆく彼の背中を見つめながら、誰もが彼の遍路と人生の旅の無事を祈った。

由紀たちと、お婆ちゃんたちが分乗した二台の車は、四十一番へ向かって車で走り出して、まもなく彼の歩く姿を見つけ、追い越して行った。

追い越す時に六人は車の中から会釈をしたのだが、彼は気がつかずに、ただ前を見つめ黙々と歩いていた。

宇和島市を通り過ぎ、国道から県道に入り、四十一番と、そこから車で五分の所にある四十二番仏木寺を参拝してから昼食の為に入ったレストランで、六人は、これからの予定を話し合っている。
< 130 / 244 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop