灯火
その時の事を思い出していると使い慣れた駅が見えた。
行き交う人をすり抜けて構内に入り、電光掲示板で時刻を確認すると改札を抜け彼の街へと行く電車に乗り込む。
座ったのは窓際。
間もなくして快速列車は動き始める。
ウォークマンの電源を切りイヤホンを外しバッグに仕舞うと同時にメモを取り出し、下車する駅名を確かめるとそのまま右手に握った。
ホームから離れ、窓から次々と見える外の流れを堪能しているうちに、彼もこの景色を見たんだと思ったら何故だか心が温かくなる。
暫くすると停車のアナウンスが流れ、スピードが徐々に落ち最初の停車駅に停まると音をたてドアが開いた。
頬杖をついて発車を待っていると『隣いいですか?』と声がしたので、見上げると60歳前後のおじさんが立っている。
手をどうぞと差し出し、バッグを膝の上に乗せるとおじさんはやんわりと微笑み腰掛けた。
同時にドアが閉まり再度運転を再開する。