アクアマリンの秘密
派手に血が飛び散るわけでもなく、我が国の共鳴石、アメジストがその姿を現す。
薬指に収まるように縮んでいたが、居場所を失ったその石は元の大きさに戻り、コロンと地面に落ちた。幸い地面の上は雪で覆われていて、割れることはなかった。
その代わり…崩れていったのは華央の体だった。


「華央…。」

「紫紀…。」


自分の名前を呼ぶ声さえ愛しい。
もうこの声も聞けなくなってしまう…そんな現実が急に自分を襲う。
そんなことを思っているうちに、華央の体は俺が斬った指先から雪へと変わっていく。


「紫紀。」


そう言って俺の頬に右手を添える華央。
彼女はそのまますっと、背伸びをした。


ふっと唇に温かい感触と華央の香りが残る。


「この体が消えてしまっても…心は残るから…。
有坂華央の人生において…あなたと出会えたことが…あなたを愛し、愛されたことが…一番の誇りよ。
…あなたのことを…ずっと愛してるわ。紫紀。」



止めていた時間が動き始めた。
突風が吹き、崩れ去った雪は跡かたもなく消えた。



< 276 / 678 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop