アクアマリンの秘密
「え…?」

「お前にとっても…星来が何も覚えていないというのは…辛いだろう?」

「私は辛くなどない。
…お前たちとは一緒に過ごしてきた時間が違う。」

「時間は関係ない。
星来は…そのままのお前を初めて受け止めてくれた人間だろ?
それがなかったことになるというのは…誰よりも辛いことかもしれない。」



私の痛みを分かろうとしてくれているというのが瞬時に分かった。

なぜこの男は…。
この男に関しては分からないことばかりだった。
まず、始まりがそうだった。



「お前は…分からぬ男だな。」

「何がだ?」

「私は未だになぜお前が私を助けたのかが分からない。」

「それは説明しただろう?
星来が悲しむから、そしてお前に俺たちが救ってもらったからだと。」

「それではつり合わない。」

「つり合わない?」

「…私はお前たちをただ回廊から引きずり戻しただけだ。
完全に救ったとは言えない。
それなのにお前はリスクを冒して私を救った。
死ぬべきだった私の未来を変えた…。」




本当はあの時に終わるはずだった私の命。
なのにこうして今も生き長らえているのは…ひとえにこの男が時間を戻したからだった。
あの時死んでしまえば…



「忘れる必要もなかったのに…。」


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