アクアマリンの秘密
「目が覚めたあの子が…一体何を話すのかは分からない。
蒼刃にとっては立ち直れないほどに残酷な言葉を吐く可能性だってある。
それでも蒼刃は…忘れたいとは言わないだろう。」

「なぜだ…?」

「蒼刃が忘れたら…全てが終わってしまうからだ。」

「全てが…終わる…?」

「ああ。
二人の間にあった思い出も全て…消える。
忘れるとはそういうことだ。
星来と過ごした楽しかった時間も、辛かった時間も全て…なかったことになる。
星来からもらった想いも、星来に託した想いも…何もかも。
蒼刃は決して弱くない。
だから…そんな選択はしない。
弱い俺は…間違った道を選ぼうとしたがな。
そして星来に正しい答えを教えられた。
…全く…いつまでも成長しないのは俺だな、本当に。」


少し自分を嘲るように最後の言葉を漏らした朝霧紫紀。
そんな男が一瞬、いつもと違って見えた。



「忘れることは…出来ない…ということか…。」

「ああ。
お前の本心は…忘れたいとは願っていないはずだ。」

「私の本心など、お前に分かるはずもないだろう。」

「…確かに。
だがお前は…。」

「…何だ?」

「いや…何でもない。
それより行くぞ。」

「どこに?」

「桃依のテレポートの練習に付き合いに。
おそらく白斗もまた妙な場所に飛ばされているはずだ。」

「お前たちのくだらん遊びに私を巻き込むな。」

「たまには巻き込まれてみろ。
…気が紛れるぞ。」



そう言って少しだけ…朝霧紫紀が微笑んだように見えたのは…おそらく目の錯覚だろう。


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