無音のココロ音
                   ♪

「くっそお……あんなに怒られるとは………」
 HRが終わり、担任が出て行くのを待って、浩太は愚痴をこぼした。
 無論、本気の愚痴ではない。
 自分が遅刻したせいで怒られたことは分かっている。
 でも、だからこそ、あの女が憎い。
 一緒に暮らすなんて、できるわけがない。地獄だ。
 毎日遅刻だ。
 どうしたいんだ、親父は。
 俺の学校内での評価を下げてどうするつもりなんだ?
 校長にも嫌われてるんだぞ、俺。
「ふざけんなよ……親父……」
 椅子に背を任せ、もたれ掛かる。
 溜め息をついて、伸びをした。
 瞬間、視界がぐらついた。
 天井が一瞬で遠くなる。
 宙を浮いたような感覚。
 後頭部に激痛が走った。
 反射的に目を閉じてしまい、視界が遮断される。
 出血を予感させるような痛みに、すぐには目が開けられなかった。
 それでも、教室のざわつきを感じた。
 しかし、耳を澄まして聞いてみると、違和感。
(あの子誰?)
(知らねえけど、めっちゃ可愛いじゃん)
(でも、あの伊敷君を……蹴った?)
(何もなければいいけど………)
 自分が、蹴られた?
 誰に?
 記憶をたどってみる。
 最近の記憶の中で、自分に遠慮なく暴力を振るえる人を挙げていく。
 ――――校長
 ――――両親
 ――――………詩音
 これだ!
 絶対これだ!
 確信に至ったところで、目を見開く。
「………?」
 やはりそこには、思った通りの顔が不思議そうに首を傾げて見つめていた。
「何をしている? というか、何をした?」
『蹴った 椅子を』
 知ってるわ! と言いかけて、周囲の視線が痛く感じられた。
 ひそひそと話し声が聞こえる。
 変な勘違いを受けなければいいけどな……。
「とりあえず、ここを出るぞ」
 そう言って、詩音の手首を掴んだ。
 詩音は明らさまに嫌そうな顔をしたが、気にしてはいられない。
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