無音のココロ音
 その手を引いて駆け出した。
 自然と生徒の輪が二つに分かれ、教室から出るのに苦労はなかった。
 そのまま走って、行く先は――――
「おい! おっさん!」
「おっさんじゃないだろうが! お姉さんだ!」
 来慣れた、校長室であった。
「この子はしっかり監禁しておけ! 俺はそんなに注目されたい存在ではない!」
「は? 意味が分からないけど、七葉詩音の面倒を見るのはお前の役割だろう?」
「んなこと知るか! せめて家だけにしてくれ! 学校に持ってこないからな! 次からは!」
 校長は溜め息をつき、あきれたような表情になる。
「その子もお前と同じクラスで学校に通うんだよ。それぐらい、学校に連れて来ようとしていた時点でわかっていただろう?」
「知るか! せめて違うクラス! 頼む!」
「あーもう、いちいち五月蠅い男だな」
 校長は、偉そうに踏ん反り返っていた無駄に大きな椅子から立ち上がり、浩太の目の前まで歩いて来た。
「どうしてもこの子が嫌いだっていうのか?」
「いや、別に嫌いってわけじゃ………ただ、同じ教室にいるのは嫌というか、何というか……」
「嫌いなんだな? ほら、一発殴れ、七葉詩音」
「殴る!? ってか、君も本当に殴るな! この人は頭がおかしいんだぞ!」
「校長の頭がおかしいと平気で言えるお前の方がおかしいだろ」
「………ですね。もういいですから、嫌いだったら何かしてくれるんですか?」
 ボコボコと肋骨を砕こうとする痛みを必死に堪えながら、校長の答えを待つ。
「そうだな……では、こうしよう。その子は元の予定通り、特別学級での授業とする」
 特別学級。
 よほどの問題があって普通の生徒とは一緒に授業が受けられそうにない生徒や、詩音のように何か身体的に障害がある生徒が通う、名の通り特別な学級。
 話すことができないというだけで、そんな場所に通わせるのは気が引けたが、同じ教室で授業を受けるよりは気を使わずにいられるなら、そっちの方がいい。
「そうしてください」
 浩太は詩音の手を離し、なぜか悲しそうな目を向けてくる詩音とは意識して目を合わさないようにして、校長室を出た。
 扉を抜ける時に聞こえたのは、校長の一際大きな溜め息であった。

 
< 11 / 18 >

この作品をシェア

pagetop