無音のココロ音
                   ♪

「ふう……大体これで全部かな」
 買い物を粗方済ませ、自宅の方に歩き出そうとすると、詩音がついて来ていないことに気が付いた。
 振り返ると、高価なアクセサリーを売っている店の前で立ち止っている。
「あー……女の子の習性ってやつね……」
 ああ、面倒くさい、と思いながら、立ち止まって動かない詩音に歩み寄る。
「何してんだよ?」
『別に』
 返答の紙を差し出しながらも、視線は店内のある一点に注がれていた。
 一向に動き出さないので、その視線の先に目をやる。
「は……?」
 そこには、二三〇〇円と値札の付いた、いかにも安そうな、それでもキラキラとしていて詩音に似合いそうなペンダントがあった。中に小さな写真を入れられるようになったケースが首から垂らせるようになっているだけで、正直必要があるのか不安だったが、
「欲しい、のか?」
『別に』と出しかけた詩音が、慌てて紙切れを引っ込める。代わりに、『うん』と書かれた紙が差し出された。
『別に、無理だったら買わなくてもいい』
「ばか、甘えとけって」
『甘えたくない』と出された紙をわざと受け取り、浩太は詩音に構わず店内に入って行った。
 詩音はガラス越しに店内の浩太の様子を窺っている。
 浩太がペンダントを手に取り、確認のために詩音の方に見せると、詩音は遠慮がちに頷いた。
「これ、ください」
 レジに出して会計を済ませ、店を出ると詩音が駆け寄って来た。
『それ』
「ん? ああ、あげるよ。欲しかったんだろ?」
『うん』
 詩音が浩太の手からペンダントを受け取るのを待って歩き出そうとすると、詩音に後ろから手を掴まれて立ち止まった。
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