無音のココロ音
「どうした?」
 沈黙が返って来る。
 詩音は、何か言いたそうな目で浩太を見つめたり、目が合ったと思うとすぐに逸らしたりしてそわそわと落ち着かない様子。
 話しかけるのも場違いな気がして、浩太も沈黙してしまった。
 どうしろというのだろう。
 しばらく止まって待っていると、手を繋いで見つめ合っている自分達に気付き、慌てて手を離した。
 右手に残った詩音の体温に、自然と鼓動が速くなった。
「その……用件は? まだ何か欲しいか?」
『違う』
「じゃあ、何だよ?」
『やっぱり 何でもない』
 それっきり、詩音は浩太と目を合わせないようになってしまった。
 俺、何かしたかな?
「まあ、とりあえず帰るか。この時間なら、通学路を通って帰っても誰にも見つからずに済むだろ」
 詩音は頷き、浩太と並んで歩き始めた。
 さあて、帰ったら風呂に入りたいな。あ、でも、詩音が先に入りたがるだろうな。
 そういや、詩音の入浴を覗いても、悲鳴とか上げられないんだな。
 好都合だな。
 邪な考えと共に、詩音を横目に見やる。
『何』
 片手に持っているメモの、常に開いているページを見せられた。
 そこには、大きく『何』と書かれているだけで、浩太にいつでも見せられるようにしているようだ。
 便利なのか、軽蔑されているのか、分からないが、何だか悲しくなってきた。
「君は………」
『何』
「風呂を覗かれても悲鳴とか上げないよね?」
 詩音は一瞬驚いたような表情を見せ、急いでメモ帳にペンを走らせた。
『変態 サイテー キモイ 死んで』
 散々な言われようだが、当然のことなので、甘んじて受ける。
 ははは、と苦笑いして、
「嘘だよ」
 と、釈弁した。
「風呂は君が先な」
『当たり前』
 これまた、苦笑いで返すしかなかった。
< 16 / 18 >

この作品をシェア

pagetop