無音のココロ音
騒ぎが一件落着したところで、何事もなかったかのように詩音がテレビを見始める。
 それを見た浩太は、洗濯物を片付けてしまおうと風呂場の前にある洗濯機に向かった。
 溜まった洗濯物を洗濯機に放り込んでいると、足元に落ちている物に目が止まった。
 そう言えば、確かこの辺りに詩音が持っていた何かを投げ出したような………
「って、俺の―――」
 ――――下着だった。下の。
 こんな物を持って、何をしていたのだろうか。
 疑問と共に、何だか恥ずかしくなってくる。
 まあ、普通のチェック柄だし、恥ずかしがることはないか、と洗濯機にこれも放ろうとした時、背後に視線を感じた。
 振り返ると、詩音がこちらを見てあたふたとしている。
「どうした?」
『気にしないって言った』
「いや、気にしてないけど」
『でも、今変な妄想してた』
「してない」
『してた ニヤニヤしてたもん』
 いやいや、それは多分、気恥ずかしさを一瞬感じた辺りで自然に………
『ただ』
 メモ帳を浩太に見せ、もう一度手元に戻した詩音は、続きの言葉を書いた。
『言い訳させて』

 それから、詩音の精一杯の筆文による弁解により、さきほどの詩音の行動が、ペンダントを買ってくれたお礼に家事を何か手伝おうとして、ちょうど洗濯機を見つけ、これならできると取り掛かったところ、浩太が出て来てしまったらしい。
 それはそれで残念な現実だったが、変な勘違いをしたまま共に過ごすよりはましかと開き直った。
 詩音も一通り説明できて満足したようで、居間に戻ると真っ先にソファーに横になった。
 先を越された浩太は、床に敷いた座布団に腰を下ろす。
「君は本当に遠慮がないな」
 独り呟くが、返って来るのは沈黙と、しばらくしてからの寝息だった。


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