無音のココロ音
部屋をあらかた整理し終わり、埃もふき取った。使用するのに不自由はないはずだ。
 時計を見ると、午後三時。すでに約三時間も無駄にしてしまった。
 段ボール箱を部屋に運び込んだ後、起きてから何も食べていなかったことを思い出し、空腹が襲ってきた。台所に移動し、冷蔵庫を開ける。昨日、買い物をするのを忘れていたせいで、何も入っていなかった。買い出しに行くしかない。
 手早く着替えて玄関に向かう。何を買おうかな、とか思いながら扉を開けるのと、その向こうで、初めて会う少女がインターフォンを鳴らしたのは、ほぼ同時のことだった。

「えーと、君は……?」
 目の前に立っているのは、同い年ぐらいの少女。長い黒髪を綺麗に流している。目つきが鋭く、近寄り難い雰囲気がある。服装は緑のラインが入った白い上着に、一般的なジーンズというカジュアルな格好だった。
「もしかして、『七葉 詩音』さん?」
 しばらく疑わしそうなの視線を向けてきていた少女だったが、ややあって首肯した。
「えーと……。俺は浩太。伊敷 浩太だ。よろしく」
 返事はない。首を縦に動かすだけだ。 
「無口……なんだね」
 やはり、返事はない。しかし、今回は首を縦にも横にも振らなかった。ただ、少し悲しそうな目をする。
「遠慮せずに、入って」
 少女改め、詩音さんは、浩太が言い終わる前に部屋に入って来た。
「あっ、おい」
 居間まで行って、きょろきょろとする。探し物でもしているのか、色々漁ってから、さらに奥に行って、浩太の寝室に入って行った。
「ちょっと、君っ。いい加減にしろっ」
 背後について行っていた浩太は、後ろから詩音さんの頭をぺしっと叩く。なかなかの力で叩いたが、声は上げずに憎しみを込めた目を向けて振り返った。目尻には涙が溜まっている。
「遠慮なくとは言ったが、そこまで勝手には行動するな。君の部屋は隣。荷物なら、全部そこにあるよ」
 詩音さんは浩太を一瞥した後、わざと肩をぶつけてから部屋を出る。自室に入って行った詩音さんは、わざとらしく大きな音を立てて乱暴に扉を閉めた。
「か、感じ悪すぎねえか?」
 
 出会いは、実に厳かなものとなった。

                 ♪

「あのー。晩飯なんですけど。食べます?」
 ようやく買い物から帰って来て、夕食を作った。
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