無音のココロ音
しかし、あれ以来、詩音さんは部屋から出てこようとしない。今も、全く返事すら返って来ない。
「なんつー聞き分けのない―――」
 ドンッ。
「うわあっ」
 扉が向こうから強く叩かれた。どうやら、浩太の声を聞いていないわけではないらしい。
「飯、ありますから。腹減ったら出て来てくださいね?」
 ドンッ。
 ――――返事もこれなんだ……

 しばらく経った。時刻は午後九時。かれこれ九時間近く、詩音は姿を見せていない。
 浩太は、目の前のテーブルの上に置いてある、ラップの掛けられたご飯と味噌汁を見つめていたが、とうとう痺れを切らして立ち上がる。
 詩音の部屋の扉をガタガタと揺らす。内側からカギが掛かっていて、扉は開かない。
「おいっ。君、いつまでそうしているつもりなんだ?叩いたことを怒ってるなら謝るからさ」
 返事は返って来ない。それどころか、全く反応が無い。
「とうとう無視かよ……?」
 ちょっと頭に来て、最終手段を執行した。
残念ながら、この扉は――――
――――ガチャ
外からでも鍵を開けられるのであった。
 部屋に侵入した浩太は、内部の光景を目の当たりにして、声を失った。
「君! 大丈夫か! おいっ! どうしたんだよ!」
 そこには、顔を紅潮させて、床に横たわる詩音の姿があった。息も荒く、目も虚ろだ。駆け寄って、額に手を当てる。案の定、高熱だった。
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