無音のココロ音
 この時間じゃ、病院は開いてないだろうと考え、多少躊躇いつつも、詩音を抱きかかえてベッドに寝かせた。
「くっ……重い……」
 苦しそうに呼吸を繰り返している詩音の右腕が、突然振り挙げられて、浩太の頬を叩いた。
「重くない重くない」
 意識は健在。
「しっかし、何してれば、こんなに病状が悪化するんだよ」
 昼はすこぶる元気だったのに。
 ふと、ベッドの脇に置いてあった物に手が触れる。見ると、それは何時かの手紙に同封されていたメモ帳だった。
「この子のだったんだな。やっぱり」
 何も考えず手に取った。最初見たときは中を見ようとは思わなかったが、この子の物だと思うと、内容が気になった。パラパラと数ページ捲る。そこには、すでに何かが書いてあった。日常、自分たちが話すような、当たり前のような言葉の数々が―――
 メモを最後の方まで見ると、最後から数ページの所に、こう綴られていた。
『浩太さん 先程は、ついあんな態度になってしまって、どうもすいませんでした』
 明らかに浩太宛の文章。――――ってか、『つい』だったんだ。あの態度……何に対しての『つい』なんだろ?
 そして、それは一つではなかった。数ページに亘って、何度か書き直されていて、色々なパターンの謝罪の言葉が並べられていた。
 それ以前にも、書かれていることのほとんどが、謝る言葉。
 この少女が、以前どんな生活を送っていたかは分からないが、思わしくないものであることは確かであった。
 ベッドに横になって寝息を立て始めた詩音を見て、呟く。
「あんま心配させんなよ……。初対面の俺に」
 元気じゃない奴を見るほど、気分の悪いことはない。

               ♪

 ――――目が覚めると朝だった。
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