無音のココロ音
「そのメモ帳も買い直そうな。もう残りのページ少なかったし。あと、俺と話す時は『すいません』は禁句だからな。分かったか?」
 中を見られたことに気付いた詩音は、浩太の胸を押して、書いたメモを見せる。
『勝手に見ないで 変態』
「変態か……。すごい言われようだな。まあ、何と言われても買い直すぞ」
『わかった。今度一人で買いに行く』
「俺も行くよ。この辺の地理、詳しくないだろ?」
 しばらく浩太を睨んでいた詩音だったが、観念したようにメモをつけ足した。
『勝手にしてください』
「はいはい。勝手に案内させてもらうよ。ツンデレお嬢様」
 ドスッ
『デレはない ツンツン』
「ツンツン……? 何だ、ずいぶんかわいい言いまわしなんだけどそれ以上手首は回せない限界だってそれ以上は腕ごと捥げるぅっ」
『なかなか捥げない』
「捥ぐつもりなの?」
 この子との生活は、近いうちに血を見そうだ。
 昨日家に来たばかりの少女に手首を捻られて床に伏せられている。当の浩太は、その少女の瞳に、行動に見合わないものを感じていた。

 ――――不安。だよな、やっぱり。
『がっこ?』
 小首を傾げる詩音。浩太はそれに苦笑しながら答える。
「当たり前だろ。学生なんだから」
『がくせい?』
「おいおい」
 状況が掴めていない、というか言語能力に欠けている詩音を連れて寝室に向かった。
「ほら。荷物とか詰めてた奴に入ってるはずだよ? 制服とか、鞄とか、もろもろ」
『せいふく?』
「それも知らんか? と言っても、俺は着替えさせられねえし……くそ、こういう時にあいつがいればな………」
 とある人物を思い出して呟く。
 しかし、それはとても良い記憶とは言えないもので、浩太はすぐにその悪想を振り払った。
『あいつ?』
「え? あ、いや。もう帰って来ないかもしれない奴の事なんか思い出しても仕方ねえな。じゃあ、適当に着て来い。俺が正しく指摘するから」
 詩音は頷いて、自室に入って行った。
それを見送り、浩太も着替える為に自室に戻った。
< 6 / 18 >

この作品をシェア

pagetop