無音のココロ音
 制服に着替えると、しばらくは居間に行って待っていた。
 ―――十分経つ。
 ―――二十分。―――三十分。

 四十分後。浩太は詩音の部屋の前にいた。
「おーい。まだか? 一回着たら出て来いって。間違ってたら言うから。まあ、間違えることは、あんまねえと思うけどな」
 制服なんて、着方を間違えるようなところ無いからな。
 返事はない。―――いや、出来ないんだったか……
「入ってよかったら、そっちから扉をノックしてくれるか?」
 ドンッ
「ノックでいいって」
 この扉は早いうちにいつか壊れそうな気がする。
「詩音さん?」
 部屋の中には詩音さんの姿はなかった。代わりに、カーテンが大窓の端の方で包まって揺れていた。
「何で隠れてんの?」
 カーテンの中から手だけがぴょこっと出る。その手にはメモが一枚握られていた。
『ちょっと待ちなさい。私にも心の準備が必要』
「はあ……?」
 よく分からない返事に戸惑って、とりあえず突っ立っていた。
『出るよ?』
 メモがカーテンボールから出てくる。「おう」と適当に返す。早くしてくれないと学校に遅刻する。というかすでにピンチ。
 次の瞬間、
カーテンが大きく揺れた。
ふわりと浮きあがる。
窓の外からの光が遮られ、代わりに小動物のようにひょこっと現れたのは、
『どう? 意見求む』
 と、書かれたメモを手にした制服姿の詩音だった。今は季節的に冬服なので長袖になるが、詩音は何故か袖を捲くって肘ほどになっていた。
 腕を組んで仁王立ちになった詩音は、何かを待ち望むようにこちらを見つめている。
態度や表情とは裏腹に、頬には薄く朱色が浮かんでいる気さえした。
 しかし、基本的には制服の着方は間違ってはいなく、指摘する部分は無い。なので浩太は、さも当たり前の返答をした。
「うん。大丈夫大丈夫。さあ、早く行こう」
 鉄拳が飛んできた。
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