レゾンデートル



「い、いやいやいや!私ほんと弾けないよ!」

「大丈夫ですよー!わたしもそんなに弾けませんし」


と、言われても。


「タブ譜わかります?わかるんなら、おれが今から言いますから覚えちゃって下さい。簡単なんで」


にこりと笑いながら雛春くんが言う。
あ、本気っぽい。
「じゃあ、少しだけ…」と呟くと、二人は嬉しそうに笑いながらこっちを見た。

それから少しだけ練習して、ぶっつけ本番。
優羽里ちゃんのギターを借りて弾くから、今回は私と雛春くんだけで弾くことになる。

急に真剣な顔になった雛春くんが、アコギをコンコンと軽く4回叩く。
始まりの合図だ。


ジャカジャカと掻き鳴らしたような音で、メロディーを刻む。
前奏が終わったところで雛春くんが口を開く。

荒々しいギターに、ひどく悲しい歌をのせて、雛春くんは歌う。
一緒に弾きながらだけど、やっぱり歌もギターも、素人とは思えない上手さだ。
それに、聞いたことのない曲だから、もしかして作ったのかもしれない。



『そうか、僕が嫌いか
 ならば言わせてもらおう
 僕は君が好きだよ』

『運命なんか信じちゃいないが
 君が言うなら悪くないのかな』



中学生にしては大人びている歌詞、悲しいくらいに荒々しいギター。
私を含め、ここにいる人達は、彼に引き込まれていった。





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