レゾンデートル
ちょっと前の話
1 出会い
「お前さ、楽しいの?」
目の前に現れた黒髪長身の男は、とても綺麗な顔をしていた。
「手首、痛くねえの?」
そう言って指差された自分の腕を見ると、彼に見られるに及ばないほどに醜かった。
「別に痛くないけど」
それが精一杯だった。
ぼそりと零した言葉を、彼は軽々と拾い上げる。
「今は痛くねえかもだけど、切ったときは痛かっただろ」
「別に」
不器用な彼の優しさに、不器用にしか返すことができない自分を呪った。
ちらりと目線を彼の真っ黒い瞳に移すと、彼の瞳には小さな私がいた。
「お前、死にたいのか?」
じっ、とこちらを見据えて紡がれた彼の言葉は、今の私には重たすぎた。
拾いきれない言葉を精一杯拾い、また俯きながら不器用に返事をする。
「死にたいよ。生きてても良いことなんてないし」
本音だった。
こんなこと他人に言うのは初めてで、自分でも驚いてしまう。
軽蔑されただろうかと彼を見上げると、彼は優しい目をしていた。
「何があったかよく分かんねえけど、辛かったよな。よく頑張ったな」
くしゃり、と撫でられたときに頭に触れた彼の体温は、思っていたよりもずっとずっと温かくて優しくて、思わず涙を零してしまった。
これが彼と私の最初の出会い。
私も彼もまだ幼かった、中学1年生の冬のことだった。
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