レゾンデートル
「おい!大丈夫かよ!」
私の手を掴んでいた男が私の手を離したとき、ゴッ、という鈍い音をたてて男は倒れ込んだ。
威圧感を感じ、ふと上を見上げると、そこにはあの時の男が立っていた。
「おい、」
私にかけられた言葉は、あの時より冷たくて、でも声は一緒で、なんだか悲しくなった。
そんなことを考えていると、そいつに腕を掴まれた。
思っていたよりずっと熱い体温に胸が高鳴る。
「走るぞ!」
そう言って走り出す名前も知らないそいつは、私を気にしながら歩幅を狭める。
名前も知らないくせに、安心して同じ方向に走る私は無用心なのかも知れない。
もしかしたら、あの時のことなんて覚えてなくて、さっき倒れた男達とグルかも知れない。
でも、私は足を止めることができなかった。
***
「おし。ここまで来れば大丈夫だろ」
「、うん」
あれからどれだけ走ったのか分からないけど、ここはどこかの住宅街らしい。
走った距離が長かったのか、少しだけ息が上がる。
そんな私を見てか、そいつは私の背中をさすった。
「大丈夫か?」
「うん」
「何か飲むか?」
「や、良い。大丈夫」
「そっか」
「ん」
沈黙が流れる。
耐え切れず下を向く。
「有難う」とりあえずそう伝えなければ、と思い、勢い良く顔を上げると、そいつは私の頬に触れた。
「へ!?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
もしかして、もしかしなくても、これは。
いや待て、早いぞ!
でも、助けてくれたお礼としてするべきか…でも!こんな住宅街で…!
一人葛藤していると、目の前のそいつは、空いている片手で自分の頬にも触れた。
ん?
「冷てぇな」
「は?」
どういうこと?
状況を把握しきれない私は、目を丸くすることしかできなかった。
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