レゾンデートル



「は、え?は?」


戸惑いを隠しきれない私の手首を掴み、目の前の男は口を開く。


「俺ん家ここだから、上がってけよ」


あいた手で指差した先には、大きな家が建っていた。
驚いて家から彼に視線を移すと、彼は少し笑っているように見えた。
そして「な?」と言われ、ついに私は頷いてしまった。

なんて無用心なんだろう。
そうは思ったが、私は言われるがまま、彼の家へと足を進めた。


「ただいまー」


カチャリと扉を開けながら言う彼は、少しだけ幼さが残っていて、なんだかときめいてしまう。
そんな自分に恥ずかしくなる。

私が彼に続いて「お邪魔します」と言うと、明かりの灯った部屋の中から金髪の少年が現れた。


「来琉!おかえり、早かったね!もっと遅くなると思ってたよーって、あれ、女の子?珍しーい!どこで拾ったの?あ、まさか拾い食い?」


一人で喋る金髪の少年は綺麗な顔をしていた。
だが、彼の少し長い髪の毛の間からちらりと見えた耳には、たくさんのピアスがついていた。

この人も不良…?


「愛琉うるさい。こいつはさっき不良に絡まれてたから連れて来ただけ。拾ってねぇし食ってねぇ」


来琉と呼ばれた彼は、愛琉と呼ばれた金髪の少年の額を軽くこつんと殴って、私を部屋に招き入れた。

少し緊張していた私に、少年は「何か飲む?ココアかコーヒーか紅茶ならあるよー」と笑いかけた。
「じゃあ、ココア」と答えると、少年は嬉しそうに笑って「分かった!」と言う。

なんか好青年っぽい。
見た目はチャラいけど、すごくいい人のようだ。

私達のやり取りを見て、彼は「愛琉、俺はコーヒーな」と当然のように言った。





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