ヒロイック美学
(……大変だ、)
すぐ助けに行こうという使命感と、事が済んだ後の称賛や喝采を欲する欲望に燃えて、僕は立ち上がった。
一車両の列車くらいならば、僕に救うことは簡単だ。
僕はヒーローなのだから。
──なんで助けた!
不意に走り出した頭に木霊したのは、今はもう轢かれて、潰れたトマトかスイカのように死んだであろう男の声。
人が善かれと思ってした行為を、自分にとっては悪だと言い放った。
──もし、あの列車が、自殺志願者しか乗らない車両だったら、……また同じように
考えて、いやまさかそんな物存在しないだろうと、頭を振った。
殴られたショックで、頭がどうかしているのかもしれない。