恋~れんごく~獄
「…だから何だ!お前の罪が軽くなるわけではないぞ馬鹿者!」


しばらくの間、取調室には、何とも言えない重々しい空気が漂っていた。
そしてそんな中、武浩はこの小説型日記「恋獄」を、何度か読み返している内に、ある一つの奇妙な点に気が付き戦慄した。


「そ、そういえば刑事さん!何であの女、俺の名前知ってんだよ!
あの日初めて会ったってのに…」



「犯人が捕まったんだって。あんたの希望通りに、刑事さんに手渡してあげたよ、これで良かったかい、『奈津子』…」


全ては奈津子の、哀しき妄想小説であった。
武浩に襲われた瞬間、彼女の中で何かが、弾け飛んだ。
彼女は、自分の心の奥にしまい込んだ、大学時代の苦い失恋経験をずっと重荷にしてきた。
大学在籍時、同じ美術サークルの仲間で憧れだった矢射津真に、こっぴどく振られ、いたたまれなくなって、サークルを止めてしまった事。
そして彼には彼女がいて、それが何と、長年羨み妬み続けてきた、幼なじみの春菜美加華であった事。
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