Coffee?
「ゴメンね、泣かせた。」


「…駄目って言ったのに、抱きしめたりするから。」


「うん、ワザと。」



酷い、と呟くと、海斗は知ってると笑った。



なら、もう少し優しくしてよ。



あたしは言葉を飲み込んだ。



「まだ、家には帰ってないの?」


「当たり前だろ。」


「どうして、帰ってきたの?」



沈黙。



上を向くと、海斗が難しい顔をしていた。



「資金も尽きたし。
さすがに疲れたんだ。
情けないだろ。」


「ううん。
そんなこと。」


「そんなことあるよ。
勝手に家を飛び出したのに、母さんに合わせる顔がない。」



耳元で海斗の弱々しい声が聞こえる。



「大丈夫だよ。」



何が大丈夫か分からない。



それでもあたしは大丈夫という言葉を口にした。



「うん。」



さらっと海斗の髪を撫でる。



しばらく、あたしは黙ってそうしていた。



「……上向いて?」



言われた通り、顔を上げると、アップの海斗の顔。



そのままおりてきて、唇が重なる。



久し振りの感触。



あたしはきつく海斗を抱き締めた。



「好きだったよ。」



唇が離れた間隔に吐き出される言葉。



「ずっと、好きだった。」


「あたしも。」


「忘れられてたら、どうしようかと思って。」



また、唇が重なる。



「ずっと不安だった。」



大丈夫だよ、忘れるわけない。



忘れられない。




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