炭酸金魚水
何故菜月はこの暑さの中で抱き付いてきたのだろうか。
何故腕に力を込めてまで離してくれないのだろうか。
私は暑さでオーバーヒートしている脳を必死に回転させ、答えを導き出そうと躍起になった。
菜月は極度の怖がりな性格であったが、何かに怯え私に抱きついてきた、という考えは晴天の昼間にはまずあり得ない事だったので消去された。
母に怒られたから、という考えも怒声が聞こえなかったため無し。
他に思い当たる節がなかった私は、怪訝な顔をするしかなかった。
眉をひそめていた私は、急に何処からか僅かに漂ってきた甘くクセのある香りに鼻腔をくすぐられた。
その香りに気づき、どこかで嗅いだことがあるなと思った私は、いつ頃の事だったかと記憶の糸を懸命に辿ってみたが、何も思い出せずに歯痒い思いをするだけだった。
菜月の事といい、不可思議な香りといい、私を混乱させるばかりだ。