女社長は12歳
「ん? これはなんじゃ?」

「うちの駐在員がアメリカから帰国する際に持って参りました。彼の住んでいた地区では、このソックスが若者にやたら人気だと言うんです。なにぶん田舎町なので今は都会のトレンドではないようなのですが、もしもこれがアメリカの都会で流行るようなら、その前に日本で独占販売権を取得しておくのはどうか、と、彼は申しております。現に、現地ではローカルのテレビ局で取り上げられていて、売り上げも好調とのことです」

「どれ、ちょっと見せてみな?」

神野は、良造のもとへソックスを持っていった。

「ふうむ、なんてことないソックスに見えるがのう……こんなもんが売れるのかね……」

ソックスを手に取った良造は、ビニール袋を開けて中身を取り出すと、いろんな角度からながめた。

きららも、良造が見ている脇で、そのソックスを観察した。

「まあなんともいえません。ただ、メーカーはまだ駆け出しでして、アメリカ国内はもとより日本にもまったく名が知れてません。ですから、独占契約を持ちかければ向こうはよろこぶでしょう。きっとこちらの言い値の格安な卸値で契約に応じるに違いありません。新進気鋭のメーカーゆえ、もしも将来人気が出るとしたら、今のうちに提携しておくことは決して無駄ではないように思います。」

「ふうむ……」

良造はソックスを会議机に置き、腕組みをして考え込んだ。その目は真剣で、温和ないつもの良造のそれとは明らかに別人のようだった。きららは、そんな良造の横顔を見て、おじいちゃんもこんな表情をするんだ、と、意外な一面を見たような気がした。

「で? さっき試すと言っとったが?」

「はい。このソックス、ただ漠然と売るのではなく、もっと捻った売り方があれば話題にもなり、更なる売り上げが見込めるかもしれません。そこで……」

神野はきららのほうを見た。

「その企画を、お孫さんに考えてもらいます」
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