愛してない、
「おい、玲奈? 大丈夫かよ」

 揺さぶられた体。沈んでいた意識がふわふわと浮上していく。

「……あ?」

 まぶたを持ち上げれば、目の前には心配そうに眉を寄せる玲斗の顔があった。

「何、怖い夢でも見てた? すげーうなされてたけど」

「……いや、何でもない、と、思う」
「思うって何だよ」

 ふっと緩く笑った玲斗が私の頬を撫で、そのまま汗で額に張り付いた前髪を退かしてくれた。ソファーの上、無理な姿勢で寝ていたせいだろうか。全身が痛むのは。

「……おかえり」
「ただいま」

 それにしても。

「どんだけ待ったと思ってんの、遅い死ね馬鹿」
「ひでえ! 何だよ、走って帰ってきたのに」
「知るか。私だって、オムライス作って待ってたのに」

 その言葉に、玲斗はピタッと黙るとテーブルの上に置かれたオムライスに目を移した。途端にぱあっと無邪気な子供っぽい笑みを浮かべる玲斗に、思わず吹き出しそうになる。喜怒哀楽が分かりやすいのは一種の才能だ。

「ハートじゃん! 超美味そう!」
「美味いに決まってんだろ、私が作ったんだから」

「すっげー嬉しい、玲奈大好き! 毎日作って」
「それは嫌だ」

 言いながらガバッと抱き付いてきた玲斗が、私の頭に何度か唇を押し当てる。別に逃げやしないんだから、そんなにがっちりホールドしなくても良いんじゃないの。予想以上にキツく抱き締められ圧迫された胸に、息が詰まった。

「……」

 何これ。

 密着した体の間に距離を作ろうと肩に手を置いた。その瞬間に見えた、鎖骨の上、色素の薄い肌に残る鬱血。いわゆる、キスマーク。

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