殺桜
しっかりもってね、そう言って俺の手に触れる。
……冷たい。
まるで死人のように、冷たい手だった。
そっと手をはなすと、悲しい瞳で俺をみつめた。
「愛していたわ」
卑屈な音が空に響く。
……嘘だろ?
「………っ!!」
彼女は俺にキスすると同時に、抱きつき自らナイフを突き刺した。
桜の中。
淡いピンク色の世界に。
赤い、赤い、真紅の血。
「あ"ぁっ!んあ"ぁ………っ」
彼女は俺の腕の中でもがき続け、やがてくたりとなった。
そのようすをただ見つめる事しかできなかった。
一面のピンク色の中に、真紅の血。
彼女に突き刺さったナイフを思いっきり引き抜く。
そして彼女が一昨日掘った大きな穴に、愛しい死体を埋めた。
彼女の上に桜が舞うことはなかった。