天使になって
出逢い
『…自由になりたい』
机の上で手を握りしめて吐き捨てるように呟いたのは今年の春に高校生になったばかりの妃菜という名前の女の子。
椅子に座っている為に椅子に触れている長い真っ直ぐの髪は闇を感じさせる程艶やかで痛みを知らないくらい細かった。日にあまり当たらない肌は対照的に雪のように白かった。
睫に縁取られた黒目がちな瞳には校庭で楽しそうに球技をするクラスメートが映っていた。ボールを追い掛け回して太陽の下で汗を拭いながら大声で笑うクラスメートの姿は涙が零れてしまいそうなくらい眩しくて見ていられなかった。
引き結ばれた唇からは溜め息が零れる。強く握り締められて組み合わされている指には力が入りすぎて関節が白くなっていた。皮膚に爪が食い込む痛みも気にならなかった。
手の痛さよりも胸の方が痛かった。
伏せていた目をもう一度上げて窓から見える校庭に目をやれば溜まった涙が零れ落ちて机の表面で小さな音を立てた。
唇を噛み締めて校庭を見たまま妃菜は何度も涙を流した。頬を濡らす感触も気にならないようで食い入るようにクラスメートを見つめ続ける。泣いている妃菜とは対照的にクラスメートは皆楽しそうだった。紫外線が皮膚を焼く刺激も気にならないのか試合形式の球技に夢中になっていた。
審判役をして笛を銜えている先生も楽しそうに生徒達な注意やアドバイスを入れて見守っている。